さだまさし/グレープ ベスト 1973-1978

さだまさし( 佐田雅志 ) さだまさし/グレープ ベスト 1973-1978歌詞
1.雪の朝


2.精霊流し

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

去年のあなたの想い出が
テープレコーダーから こぼれています
あなたのためにお友達も
集まってくれました
二人でこさえたおそろいの
浴衣も今夜は一人で着ます
線香花火が見えますか 空の上から

約束通りに あなたの愛した
レコードも一緒に流しましょう
そしてあなたの 舟のあとを
ついてゆきましょう

私の小さな弟が
何にも知らずに はしゃぎまわって
精霊流しが華やかに始まるのです

あの頃あなたがつま弾いた
ギターを私が奏(ひ)いてみました
いつの間にさびついた糸で
くすり指を切りました
あなたの愛した母さんの
今夜の着物は浅黄色
わずかの間に年老いて 寂しそうです

約束通りに あなたの嫌いな
涙は見せずに 過ごしましょう
そして黙って 舟のあとを
ついてゆきましょう

人ごみの中を縫う様に
静かに時間が通り過ぎます
あなたと私の人生をかばうみたいに


3.追伸


4.ほおずき


5.朝刊


6.無縁坂

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

母がまだ若い頃 僕の手をひいて
この坂を登る度 いつもため息をついた
ため息つけば それで済む
後だけは見ちゃだめと
笑ってた白い手は とてもやわらかだった

運がいいとか 悪いとか
人は時々 口にするけど
そうゆうことって確かにあると
あなたをみててそう思う

忍ぶ 不忍 無縁坂 かみしめる様な
ささやかな 僕の母の人生

いつかしら僕よりも 母は小さくなった
知らぬまに白い手は とても小さくなった
母はすべてを暦に刻んで
流して来たんだろう
悲しさや苦しさは きっとあったはずなのに

運がいいとか 悪いとか
人は時々 口にするけど
めぐる暦は季節の中で
漂い乍ら過ぎてゆく

忍ぶ 不忍 無縁坂 かみしめる様な
ささやかな 僕の母の人生


7.紫陽花の詩


8.ひとり占い


9.春への幻想


10.あこがれ


11.交響楽

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

煙草をくわえたら 貴方のことを
突然思い出したから
涙の落ちる前に故郷(くに)へ帰ろう
町の居酒屋のヴァイオリン弾きや
似顔絵描きの友達も
今はもういない 古い町へ

今でもそこに あなたがいたら
僕は何ていうだろう
あなたに逢うには 使い残した
時間があまりに 軽すぎて

悔やんではいないよ
想いはつのっても そうさ昔は昔

今から思えば 貴方がワグナーの
交響楽を聞きはじめたのが
二人の別れてゆく 兆になった
何故ならそれから あなたは次第に
飾ることを覚えたから
確かに美しくなったけれど

見栄えのしないおもちゃに飽きた
あなたがいけない訳じゃない
新しい風に その身をまかせ
子供が大人になっただけ

悔やんではいないよ
想いはつのっても そうさ昔は昔

そうさ昔は昔


12.掌

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

うつむきがちに 私は
掌を見つめてる
自分の人生を見つめている
つかみそこねた愛を
指でそっとたどって
ためらいに疲れて ため息つく
今より少しでいいから 勇気があれば
あなたのあたたかい指を 離さずにすんだのに
ありきたりの別れなど しなくてすんだのにと

流した涙の数を
指折りかぞえみる
ついてるついてないとかぞえてみる
いつの間にか私の
悲しみの数の方が
自分の年よりも増えてしまった
掌を鏡に写し さよならと云ってみる
いつもと同じ笑顔で こうして別れた
そしていつもこの涙を拭うのも私の手


13.19才


14.縁切寺

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

今日鎌倉へ行って来ました
二人で初めて歩いた町へ
今日のあの町は人影少なく
想い出に浸るには十分過ぎて
源氏山から北鎌倉へ
あの日と同じ道程で
たどりついたのは 縁切寺

ちょうどこの寺の山門前で
きみは突然に泣き出して
お願いここだけは 止してあなたとの
糸がもし切れたなら 生きてゆけない
あの日誰かに 頼んで撮った
一枚きりの一緒の写真
納めに来ました 縁切寺

君は今頃 幸せでしょうか
一度だけ町で 見かけたけれど
紫陽花までは まだ間があるから
こっそりと君の名を 呼ばせてください
人の縁とは 不思議なもので
そんな君から 別れの言葉
あれから三年 縁切寺


15.フレディもしくは三教街-ロシア租界にて-

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

フレディ あなたと出会ったのは 漢口
揚子江沿いのバンドで
あなたは人力車夫を止めた
フレディ 二人で 初めて行った レストラン
三教街を抜けて
フランス租界へとランデブー
あの頃私が一番好きだった
三教街のケーキ屋を覚えてる?
ヘイゼルウッドのおじいさんの
なんて深くて蒼い目
いつでもパイプをくゆらせて
アームチェアーで新聞をひろげてた
フレディ あなたも 年老いたらきっと
あんなすてきな おじいさんに
なると思ってたの 本当に思ってたの

フレディ それから レンガ焼きのパン屋の
ボンコのおばあさんの 掃除好きなこと
フレディ 夕暮れの 鐘に十字切って
ポプラの枯葉に埋もれたあの人は一枚の絵だった
本当はあなたと私のためにも
教会の鐘の声は響くはずだった
けれどもそんな夢のすべても
あなたさえも奪ったのは
燃えあがる紅い炎の中を飛び交う戦闘機
フレディ 私はずっとあなたの側で
あなたはすてきな おじんさんに
なっていたはずだった

フレディ あなたと出逢ったのは 漢口


16.線香花火

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

ひとつふたつみっつ流れ星が落ちる
そのたびきみは 胸の前で手を組む
よっついつつむっつ流れ星が消える
きみの願いは さっきからひとつ
きみは線香花火に 息をこらして
虫の音に消えそうな 小さな声で
いつ帰るのと きいた

あれがカシオペア こちらは白鳥座
ぽつりぽつりと 僕が指さす
きみはひととおり うなずくくせに
みつめているのは 僕の顔ばかり
きみは線香花火の 煙にむせたと
ことりと咳して 涙をぬぐって
送り火のあとは 静かねって

きみの浴衣の帯に ホタルが一匹とまる
露草模様を 信じたんだね
きみへの目かくしみたいに 両手でそっとつつむ
くすり指から するりと逃げる
きみの線香花火を 持つ手が震える

揺らしちゃ駄目だよいってるそばから
火玉がぽとりと落ちて ジュッ


17.雨やどり

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

それはまだ私が神様を信じなかった頃
9月のとある木曜日に雨が降りまして
こんな日に素敵な彼が現れないかと
思ったところへあなたが雨やどり

すいませんねと笑うあなたの笑顔
とても凛凛しくて
前歯から右に四本目に虫歯がありまして
しかたがないので買ったばかりの
スヌーピーのハンカチ
貸してあげたけど 傘の方が良かったかしら

でも爽やかさがとても素敵だったので
そこは苦しい時だけの神だのみ
もしも もしも 出来ることでしたれば
あの人にも一度逢わせて ちょうだいませませ

ところが実に偶然というのは
恐ろしいもので 今年の初詣でに
私の晴着の裾踏んづけて
あ こりゃまたすいませんねと笑う
口元から虫歯がキラリン
夢かと思って ほっぺつねったら 痛かった

そんな馬鹿げた話は
今まで聞いたことがないと
ママも兄貴も死ぬ程に笑いころげる 奴らでして
それでも私が突然 口紅などつけたものだから
おまえ大丈夫かと おでこに手をあてた

本当ならつれて来てみろという
リクエストにお応えして
5月のとある水曜日に彼を呼びまして
自信たっぷりに紹介したらば
彼の靴下に 穴がポカリ
あわてて おさえたけど しっかり見られた

でも爽やかさが とても素敵だわとうけたので
彼が気をよくして急に
もしも もしも 出来ることでしたれば
この人をお嫁さんにちょうだいませませ

その後 私 気を失ってたから
よくわからないけど
目が覚めたらそういう話が すっかり出来あがっていて
おめでとうって言われて も一度気を失って
気がついたら あなたの腕に 雨やどり


18.吸殻の風景

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

久し振りね相変らず
元気そうで安心したわ
昔の様に君は笑って
煙草に火をつけて

驚かずに聞いてくれる
あれから私 どうしたと思う
つまるところ
落ち着くとこへ 落ち着いたの私

まさかと思うけど いつまでも
気にしちゃいないでしょうね

陽に灼けた肌が
染になったところで
それはお天道様の
せいじゃないのよ

だからそんな風に
悲しい顔 今夜だけは 止して頂戴
わかるでしょ雨の日には
誰だって傘をさすものよ

みんなはどう元気でいる
私の事覚えてるかしら
あの頃私 子供だったから
みんなを困らせたわ

今になって考えれば
あなたはとても良い人だった
だからこそ
落ち着くとこへ 落ち着いたの二人

人は皆それぞれに自分の
時刻表を持っているのよ

あなたと私の場合は どちらかが
列車を乗り違えただけの事じゃない

だからそんな風に
自分の事いじめるのは 止して頂戴
わかるでしょ風の日には
誰だって目をつぶるわ

それにしても 久し振りね
相変らず優しそうで安心したわ
昔の様に君は笑って
煙草の火を

煙草の火を

煙草の火を 消した


19.案山子

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

元気でいるか 街には慣れたか
友達出来たか 寂しかないか お金はあるか
今度いつ帰る

城跡から見下せば 蒼く細い河
橋のたもとに 造り酒屋のレンガ煙突
この町を綿菓子に染め抜いた雪が消えれば
お前がここを出てから初めての春

手紙が無理なら 電話でもいい
「金頼む」の一言でもいい
お前の笑顔を待ちわびる
おふくろに聴かせてやってくれ

元気でいるか 街には慣れたか
友達出来たか 寂しかないか お金はあるか
今度いつ帰る

山の麓煙吐いて列車が走る
凩が雑木林を転げ落ちて来る
銀色の毛布つけた田圃にぽつり
置き去られて雪をかぶった 案山子がひとり

お前も都会の雪景色の中で
丁度 あの案山子の様に
寂しい思いしてはいないか
体をこわしてはいないか

手紙が無理なら 電話でもいい
「金頼む」の一言でもいい
お前の笑顔を待ちわびる
おふくろに聴かせてやってくれ

元気でいるか 街には慣れたか
友達出来たか 寂しかないか お金はあるか
今度いつ帰る

寂しかないか お金はあるか
今度いつ帰る


20.桃花源

作詞:さだまさし
作曲:劉家昌

あなたの便りが峠を越えて
私のお家に届く頃
南風吹いて稲穂がそよぎ
あなたの里は黄金に染まる

川のほとりには水車がひとつ
静かに時を刻んでます
野苺色した夕陽の中に
荷馬車の影絵が浮かんでいます

仔牛が生まれた事の他には
なんにも変わりはないけれど
あなたを待つ日々のたわむれにと
私は編み物覚えました


21.檸檬

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

或の日湯島聖堂の白い石の階段に腰かけて
君は陽溜まりの中へ盗んだ檸檬細い手でかざす
それを暫くみつめた後で
きれいねと云った後で齧る
指のすきまから蒼い空に
金糸雀色の風が舞う

喰べかけの檸檬聖橋から放る
快速電車の赤い色がそれとすれ違う
川面に波紋の拡がり数えたあと
小さな溜息混じりに振り返り
捨て去る時には こうして出来るだけ
遠くへ投げ上げるものよ

君はスクランブル交差点斜めに渡り
乍ら不意に涙ぐんで
まるでこの町は青春達の姥捨山みたいだという
ねェほらそこにもここにも
かつて使い棄てられた愛が落ちてる
時の流れという名の鳩が舞い下りて
それをついばんでいる

喰べかけの夢を聖橋 から放る
各駅停車の檸檬色がそれをかみくだく
二人の波紋の拡がり数えたあと
小さな溜息混じりに振り返り
消え去る時には こうしてあっけなく
静かに堕ちてゆくものよ


22.異邦人

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

今更アルバムなんて 欲しくはないけれど
それがあなたの ひとつだけの 形見となれば別だわ
だからこうして ホラ この街を久し振りにたずねた
過ごしたアパルトマンは マロニエ通りの奥
洗濯物の万国旗や 雨晒しの自転車
タイムマシンで ホラ 戻った様に 何もかも或の日のまま

シミだらけの見慣れた壁をたどり
懐しい手摺をたどり
夢をたぐり 今日はひとり
確かめるのは 本当のおわり

狭いドアをあければ 涙を拭いもせず
あなたにすがる可愛い人 あなたの最後の人
そうよこうして ホラ 泣いてくれる人は他にもある
あなたのお友達は 私を見上げると
あからさまに顔曇らせて 黙って目を伏せる
私ひとりが ホラ 異邦人(エトランゼ) 何もかも或の日のまま

薄暗い階段を降りる
足元がかすかにうるむ
太陽が まぶしいから・・・・・


23.童話作家

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

私が童話作家になろうと思ったのは
あなたにさよならを 言われた日
もとより あなたの他には生き甲斐などないし
さりとてこの世をみつめる 勇気もなかったし
今迄二人が過ごしたあらすじを
想い出という消しゴムで消して
夢でもたべながら ひっそり暮らしてみよう
あなたの横顔を 思い出さずに済む様に

私が童話作家になって思うのは
本当を書くことの難しさ
だって 私自身がとても嘘つきで
涙をかくしては 笑って過ごしてる
原稿用紙に色鉛筆で 幸せの似顔 描いてはみるけど
悲しいくらいに 駄目な私の指先は
気がつけばいつでも あなたの笑顔を描いてる

私が童話作家になろうと思ったのは
あなたにさよならを 言われた日


24.指定券

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

もうこれまでねと 君は俯いて
左の頬だけで ひっそり笑った
北口改札を仔鹿の様に
鮮やかにすりぬけて出て行った

せめてもの お別れに 一度だけ 振り向いてくれたのに
丁度 今着いた 修学旅行の制服達が 君をかき消して
最後の声さえ 喰べてしまう

長いエスカレーター 昇って降りて
やっとの思いで 出した答
はじめる前から 終る旅もある
やはり野におけ れんげ草

せめてもの はなむけに 一度だけ手を振ってみせた
うしろ姿を つつむ紙吹雪 それは僕の ふるさとゆきの
季節はずれの 指定券


25.つゆのあとさき

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

一人歩きを始める 今日は君の卒業式
僕の扉を開けて すこしだけ泪をちらして

さよならと僕が書いた 卒業証書を抱いて
折からの風に少し 心のかわりに髪揺らして mm…

倖せでしたと一言 ありがとうと一言
僕の掌に指で 君が書いた記念写真

君の細い指先に 不似合いなマニキュア
お化粧はお止しと 思えばいらぬおせっかい

※めぐり逢う時は 花びらの中
ほかの誰よりも きれいだったよ
別れ行く時も 花びらの中
君は最後まで やさしかった※

梅雨のあとさきの トパーズ色の風は
遠ざかる 君のあとを かけぬける

ごめんなさいと一言 わすれないと一言
君は息を止めて 次の言葉を探してた

悲しい仔犬の様に ふるえる瞳をふせた
君に確かな事は もう制服はいらない

(※くり返し)

梅雨のあとさきの トパーズ色の風は
遠ざかる 君のあとを かけぬける

Ah… 梅雨のあとさきの トパーズ色の風は
遠ざかる 君のあとを かけぬける

(※くり返し)


26.飛梅


27.晩鐘

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

風花が ひとひら ふたひら 君の髪に舞い降りて
そして紅い唇沿いに 秋の終わりを白く縁取る
別れる約束の次の 交差点向けて
まるで流れる水の様に 自然な振りして 冬支度
僕の指にからんだ 最後のぬくもりを 覚えていたくて つい立ち止まる
君は信号が待ち切れない様に 向う岸に向かって駆けてゆく
銀杏黄葉の舞い散る交差点で たった今 風が止まった

哀しみが ひとひら ふたひら 僕の掌に残る
時を失くした哀れ蚊の様に 散りそびれた木犀みたいに
眩暈の後の虚ろさに 似つかわしい幕切れ
まるで長い夢をみてた ふとそんな気がしないでもない
心変わり告げる 君が痛々しくて 思わず言葉を遮った僕
君は信号が待ち切れなかっただけ 例えば心変わりひとつにしても
一番驚いているのはきっと 君の方だと思う

君は信号が待ち切れなかっただけ 流れに巻かれた浮浪雲 桐一葉
銀杏黄葉の舞い散る交差点で たった今 想い出と出会った


28.フェリー埠頭

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

私フェリーにしたの
だって飛行機も汽車も
涙乾かすには 短か過ぎるでしょう
でもさよならは まだ
言わずにいいでしょう
向うのステーション・ホテルから
電話をするから
最後の助手席で海岸通りを走る
不思議ね 思い出にすれば 皆 優しいのに
水に揺れる イルミネーション
綴れ織りの道を
あなたの横顔が
くぐり抜けて行く

ふたり過ごした日々に
ありがとう添える程
おとなになれないけど
悔やみはしないわ
ちぎれた紙テープが
思い出の数だけ
あなたに手を振るように
水の中で揺れるわ
私の心配はいらない
片想いの方が
あなたの分まで
ふたり分 愛せるから
私フェリーにしたの
だって飛行機も汽車も
涙乾かすには
短か過ぎるでしょう


29.秋桜

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

淡紅の秋桜が秋の日の
何気ない陽溜まりに揺れている
此頃 涙脆くなった母が
庭先でひとつ咳をする
縁側でアルバムを開いては
私の幼い日の思い出を
何度も同じ話くりかえす
ひとりごとみたいに 小さな声で

こんな小春日和の穏やかな日は
あなたの優しさが浸みて来る
明日嫁ぐ私に 苦労はしても
笑い話に時が変えるよ
心配いらないと 笑った

あれこれと思い出をたどったら
いつの日もひとりではなかったと
今更乍ら わがままな私に
唇かんでいます
明日への荷造りに手を借りて
しばらくは楽し気にいたけれど
突然涙こぼし 元気でと
何度も 何度も くりかえす母
ありがとうの言葉をかみしめながら
生きてみます 私なりに
こんな小春日和の穏やかな日は
もう少しあなたの
子供でいさせてください


30.主人公

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

時には 思い出ゆきの
旅行案内書にまかせ
「あの頃」という名の
駅で下りて「昔通り」を歩く
いつもの喫茶には まだ
時の名残りが少し
地下鉄の 駅の前には
「62番」のバス
鈴懸並木の 古い広場と
学生だらけの街
そういえば あなたの服の
模様さえ覚えてる
あなたの眩しい笑顔と
友達の笑い声に
抱かれて私はいつでも
必ずきらめいていた

「或いは」「もしも」だなんて
あなたは嫌ったけど
時を遡る切符があれば
欲しくなる時がある
あそこの別れ道で選びなおせるならって…
勿論 今の私を悲しむつもりはない
確かに自分で選んだ以上精一杯生きる
そうでなきゃ あなたにとても
とてもはずかしいから
あなたは教えてくれた 小さな物語でも
自分の人生の中では 誰もがみな主人公
時折り思い出の中で
あなたは支えてください
私の人生の中では私が主人公だと